- 落合陽一氏のような興味深いアーティストとのコラボレーションを通じて、現代的な芸術の要素を取り入れたことが、置賜紬という伝統工芸にどのような影響を与えたのか、また、それが未来に向けてどのような可能性、あるいは課題をもたらしたのか、教えてください。
伝統という事柄は、様々な要因によって現在につながっています。それは、その時代の技法や技術、発想が積み重なり作品となっているということ。落合氏とのものづくりは、言うまでもなく置賜紬のこれからをつなぐ大きな試みとなりました。
次世代へつなげる新しい伝統工芸の在り方として、今後、着物、帯といった和装中心のものだけではなく、もっとアクティブに取り込める可能性があることを知りました。美しさ、しなやかさの中に、強さと機能を併せ持つ染織技術を開発していくことが必要です。
- コラボレーション作品を製作する上で、置賜紬の本質を尊重しながらも、現代的な芸術表現を取り入れるために、どのように複雑に適応させたのか、又は新しい手法を用いたのか教えてください。
今回の作品の生地には、透け感を出す技法を用いて、広幅を手織りで表現しました。通常、着物は小幅といわれ38cmが中心なので、透け感を壊さず、手織りで織ることは、私たちの工房では初めての試みでした。また、染色には、代々受け継いできた紅花染を先染めしております。植物である紅花染めですが、時間と共に変わりゆく色の変化をプラスに捉え、時間軸としての侘び寂びが表現できたと思います。落合氏とのコラボレーションは、複雑に合わせるというよりは、新しい発想で美しく特別な作品をつくるという視点が大きかったです。
- 落合陽一氏の芸術的なアプローチやビジョンの中で、伝統工芸品である置賜紬に変化させる上で、最も興味をそそられた点、あるいは困難だった点は何ですか?
このコラボレーションによる作品に取り組むにあたり、落合氏は米沢の歴史、文化、伝統を知りたいということで、一緒に様々な場所を訪れ、それらを知る方から詳しく話を聞くことを重要とされました。落合陽一氏といえば、最先端の技術やテクノロジーといったイメージが強い半面、アナログな取り組み方をされており、歴史ある場所を興味深く見ていく姿に惹かれました。彼は、私たちのこれまでのものづくりを十分に理解していたので、この試みについて、困難と思うことはなく、チャレンジをさせてくれたことに、ただただ感謝しています。
- 本コラボレーションは、現代的なデザインを取り入れながら伝統を守るという点で、置賜紬の今後にどのような影響を与えるとお考えですか?
伝統とは、その時代の技法や技術の革新であったり、その当時の人、作り手の発想が表現されることで歴史として紡がれていきます。
今回、落合氏とのコラボレーションにより、これまでになかった美しい特別なアート作品が生まれたことは、今後の置賜紬の在り方、新たな表現の可能性が一層広がっていくことと思います。
- 本コラボレーションでの経験を通じて、置賜紬の伝統技術の発展に対する見方・視点がどのように変わったか、お聞かせください。
私たちにとっては初めてとなる今回のコラボレーションは、新たな発見と共に、置賜紬が発展し続ける伝統工芸であることが確信できました。伝統=地域や自分たち中心のものづくりから、新たな手をつなぐことに対しての迷いがなくなりました。