【Craft x Techレクチャーシリーズ Vol.2 】「仙台箪笥×スタジオ スワイン」 @東京大学

【Craft x Techレクチャーシリーズ Vol.2 】「仙台箪笥×スタジオ スワイン」 @東京大学

2023/12/11

(Event)

「Craft x Tech」は、日本の伝統工芸と現代的なテクノロジーを繋ぐ新しい試みです。工芸の美しい素材や技法を、歴史と未来の両面から見つめ、新しく特別なアート作品へと昇華していきます。伝統工芸の各産地と、世界的に活躍するデザイナー / アーティストによるコラボレーションをプロデュースすることで、時に数百年という歴史を持つ工芸に新しい発見をもたらすことを目指しています。Craft x Techの第一回目は、東北6県の6産地とクリエイターがコラボレーションします。
また、アート作品の制作のみならず、「Craft x Tech」に参加するクリエイターと工芸職人の各ペアによる対談を、レクチャーシリーズとして展開しています。

本イベントは、2023年から始まった東京大学での特別レクチャーです。2024年の3月に開催した第2回目は、仙台箪笥共同組合の湯目吏吉也氏とデザインユニット「スタジオ スワイン」のアレックス・グローブズ氏 をお迎えしました。

仙台箪笥 湯目吏吉也氏によるレクチャー

湯目吏吉也(ゆのめ・りきや Rikiya Yunome)
仙台箪笥協同組合、事務局長。㈱湯目家具百貨店、専務取締役。江戸末期から宮城県仙台市を中心に製造されてきた伝統的工芸品、仙台箪笥。同社は明治4年創業。東日本大震災を機に認知度向上と伝統継承の必要性を感じ『国の伝統的工芸品指定』を受けることに尽力。伝統の繋ぎ手として職人と共に新たな挑戦を続けている。

杜の都・仙台に展開した仙台箪笥

仙台は戦国武将、伊達政宗が1600年から1602年頃にかけて仙台城を築城して開発した城下町です。政宗が植樹を奨励したことにより、仙台は人口109万人を数える政令指定都市としては、今なお豊かな自然環境を誇ります。仙台市にも昔ながらの職人町の名前を残している場所が多くありますが、最近は住宅地の増加によって作業中の騒音や悪臭の問題を避けるため、職人の仕事場を都市の中心から遠い郡部へ移して作業しています。

湯目家具百貨店は仙台市に1871年に創業しました。初代の湯目林平は、木工の修行をして家具屋を始めたと聞いています。1907年に仙台市の家具屋が仙台指物組合を立ち上げたときには、林平が最初の会長になっています。初代の精神を受け継ぎ、私の祖父までは社長が木工の職人をしながら経営もする形態を取っていました。2008年に設立した仙台箪笥共同組合の運営を通じて仙台箪笥の技術を守り普及していくことと、2011年に開館した仙台箪笥歴史工芸館でより多くの方に仙台箪笥を知ってもらうことを目指して活動しています。

仙台箪笥を広めなければという危機感

仙台箪笥は、木工、漆塗、金具の3つの分野の職人技の結晶です。美しい木目とそれを生かす漆塗り、そして立体的に打ち出された錺金具が特徴です。木材には、地元に植生している欅、栗、杉を使用することが多いです。

生活様式の変化やそれに伴う需要の変化など、伝統を保つために困難な状況は何度もありましたが、私にとって一番衝撃だったのは東日本大震災のときです。近所の公園に震災ゴミといわれる、家具や家電などの家庭から出るゴミが捨てられていた中に、古い仙台箪笥が山積みに捨ててあったのを目の当たりにしました。それを見たときに、このままでは仙台箪笥はなくなってしまうという大きな危機感を持ちました。湯目家具百貨店の中に仙台箪笥歴史工芸館を開いたのは、このような背景があったからです。

一方、震災で壊れた箪笥を直してほしいという依頼を多くいただいています。それぞれの箪笥は、その家で100年以上大事にされてきた、家のアイデンティティというべきものです。漆の加工はなくとも形だけでも残したいという方や、マンション住まいなので少し小さくしてほしいなど、様々な声にお応えするうちに、地域の伝統工芸はまだ生活と文化に残っているんだということを実感しました。職人さんが繋いできた伝統を我々の代で絶やしたくない。何とか仙台箪笥を残していきたいと考えています。

仙台箪笥の抱える課題

現在、我々が抱えている課題は、先ず、仙台箪笥の需要が大正期を頂点として減少しています。生活様式の変化、特に住宅が欧米化して和室がなくなってきたことにより、箪笥が部屋に合わなくなってきています。また、以前は婚礼箪笥として需要がありましたが、クローゼットに取って替わられてきています。

2点目は技術の進歩です。より簡易で強度もある素材や技法が出てきました。反りや割りが少なく、加工もしやすい合板の家具や、漆ではなくウレタン塗装などです。手間のかかる仙台箪笥は、これらと比べて費用が上がってしまいます。

3点目が、後継者育成です。職人の数は減少しています。今は15人ほどしかおりません。木工の職人が7名、漆塗りの職人が5名、そして金具の職人が3名です。仙台箪笥の職人になりたいうという方もいるのですが、新しい職人を雇える企業や業者はなかなかいません。私たちの組合で対策を取れないか、頭を悩ませているところです。

これまでの挑戦とこれからのコラボレーションに向けて

そもそも、仙台箪笥には当初から海外に輸出されていたという歴史があります。明治から大正にかけて(1880年代から1910年代後半まで 確認)、横浜で外国人向けの商売が繁昌したのをきっかけに、輸出も盛んに行われるようになりました。金具の図案集を持って売り込みに行ったという話も伝わっていますし、私の家でも、ドイツ人のお客様から注文いただいたたりもしていたようです。この仙台箪笥の当初の歴史を受け止めて、私たちも海外へ販売しようと模索しています。

2016年にパリのデザインフェアに出展して、率直な意見を聞きました。2023年の1月には、ロンドンとパリでテスト販売をしました。今1件進んでいるところです。そのとき、バイヤーの方から、仙台箪笥は重厚感があるので、もっとシンプルにしてほしいと言われました。私たちが一番いいと思って持っていった、伝統的な仙台箪笥を否定されてしまったので、どうしようかと思いましたが、考えてみれば、仙台箪笥を使っていた時代というのは畳に座って生活する時代です。一方、今はソファや椅子に座って生活する時代ですから、生活様式と合わせて軽快感を出すために、箪笥に脚をつけて浮かせることで軽さを出したり、金具の数を減らしたものを作ってみたりしています。また、これまで金具は黒と決まっていたのですが、シャンパンゴールドに変えてみたりしています。そうすることで、ようやく別注で注文が入ってくるようになりました。

デザイナーさんとのコラボレーションはまだ行ったことがありませんが、仙台箪笥の歴史上、外国の方にも使っていただける可能性は充分にあります。今回のコラボレーションを通じて、仙台箪笥に新しい一面を加えたいと思います。

デザイナー アレックス・グローブ氏によるレクチャー

スタジオ スワイン
日本人建築家の村上あずさ・英国人アーティストのアレキサンダー・グローヴスによるデザインユニット。アート、デザイン、映像などの分野を超え、深いリサーチをベースに、科学者や経済学者など様々な領域とコラボした作品で注目される。 世界最高峰のPace Galleryとも契約し、作品はMoMAやポンピドゥセンターにも収蔵されている。

社会や環境へのまなざしと素材の探求

村上と私がロンドンのロイヤル・アカデミーを卒業した後に赴いたのはブラジルのサンパウロでした。知り合いはいなかったので、この街の生活がどう営まれているかを知るために毎日歩いて見て回っていました。そのうち、廃棄物がどのように回収されているかに興味が出てきました。というのも、組織化されて回収されているのではなく、個人がリサイクル可能なものを集めて販売していたからです。

観察していると、その人たちは古い車の部品を集めて作ったカートで、一番お金になるアルミ缶を回収して歩いているということが分かりました。そこで、私たちは最初のプロジェクトとして、回収したアルミ缶をその場で溶かすことができる移動可能な炉を作りました。使用したのは廃棄物集積場で見つけてきた廃材のみで、自動車のバッテリーで動くものでした。そして実際にアルミ缶を集めて、建設現場から砂を取ってきて、型を取って作品を制作しました。

このように、私たちは現場に行って、その場から学んで、プロジェクトを立ち上げ、制作して動画を取るということを一連の流れとして行っており、これをアドベンチャー・プロジェクトと呼んでいます。

アドベンチャー・プロジェクトの例 フォードランディア

2015年には、フォードランディアというプロジェクトを立ち上げました。これはアマゾンの熱帯雨林にある場所で、自動車王ヘンリー・フォードの名を冠した場所です。何度も飛行機を乗り継ぎ、舟で川を上った先にあるという、行くのに時間も労力もかかる場所です。フォードは自分の自動車産業のためにゴムを自前で調達するべく、1929年にアマゾンのこの一帯を購入し、開拓して街を築きました。アメリカ流の住宅を建設し、病院やゴルフコースまであるという設計で、つまりはアメリカの文明をアマゾンの熱帯雨林に持ち込むというものでした。しかし、自然には自然の摂理がある。一番大きな問題は、ゴムの木をプランテーションに植えるかのように植林してしまったことです。そもそも、ゴムはアマゾンに自生する植物ですが、それをプランテーションとして植えたことで、害虫や病気といったものが全部の木に拡がってしまったのです。また、現地で働く作業員は、非常に暑い気候の中でアメリカ式に9時から5時まで働くことに堪えられず、暴動を起こしました。こうして計画は頓挫しました。
ただ、フォード自身は「お金を儲けるだけの事業というのは貧しい事業である」という言葉に要約されるように、先見の明を持った人物でした。ビーガンでしたし、大豆由来の繊維でできたスーツを着用したり、大豆から作られたプラスチックで車を作ったりもしています。農業と工業の統合を考えていた人でした。

そこで私たちは、実際にフォードランディアをプロジェクトとしてやってみようと考えました。アマゾンのゴムは高い品質を誇ります。合成ゴムでこの品質を出すことはまだできていません。さらに、ゴムの木は原生林として保つことが重要なので、製品への対価は森林を守るために付加価値を付けるものです。問題は、ゴムが使われるのが車のエンジンの中のゴムひもやタイヤという、それほど高価ではないものの一部にしか使われていないということです。そこで、プラスチックの発明前にゴムが何に使われていたのかを調べていると、エボナイトという素材に行き当たりました。とても硬く、光沢のある素材で、万年筆や楽器のマウスピースに使われています。この素材を使って、野生のゴム産業を支援できないかと考えました。
アマゾンにある素材を使用するということ、そして自動車産業からインスピレーションを受けて、フォード・レンジャー・コレクションを発表しました。代表的なものとして、家具はトロピカル・モダニズムという、ヨーロッパのモダニズムをブラジル流に解釈したデザインを取り入れて製作しました。

デジタルアートインスタレーションにも注力

最近の新しい試みとして、自然現象とデジタルアートの融合があります。これはインタラクティブなデジタルスクリーンに、霧の輪をぶつけて、デジタルの波の画像に変化を起こすというものです。物理的に霧の輪を発生させると同時に、そのデジタルの画像をスクリーン上の海景に投影する技術を開発しました。物理的な霧の輪がスクリーンにぶつかる瞬間、デジタルの霧の輪の画像が現れて波を起こします。技術の将来はスクリーン上のみに限定されるのではなく、私たちが自然と触れ合うような、束の間の瞬間の中にもあるのだというメッセージを込めました。

仙台箪笥とのコラボレーションに向けて

私たちはこの工芸の伝統が大好きです。建築の中に美しく収まるのも素晴らしい。日本の浮世絵に見られる四角い造形がどのようにダイナミックな構図を作り出しているかを研究しながら、70年代のスーパーグリッドなどのデザインも参考にしつつ、現代に合うモダンな作品をこのプロジェクトで作ろうとわくわくしています。

[開催概要]
日時:2023年12月11日 (月) 19:00-21:00
場所:東京大学先端科学技術研究センター ENEOSホール
   東京都目黒区駒場4-6-1 先端科学技術研究センター3号館南棟1階
登壇者:湯目吏吉也、アレックス・グローブズ / スタジオ スワイン

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