- ベサンは、大胆で遊び心あふれる素材のアプローチを持っています。その感性は、絞りが持つ規律や伝統と、どのように交わりましたか?
400年以上続く茶色い木造と黒い瓦屋根の伝統的な産地の風景の中に、ピンクやオレンジの服を纏った華やかな出立ちのベサンが歩く風景を見た瞬間に、このプロジェクトで新しいものが生まれることを直感しました。話をする中で彼女の深いデザイナーとしての洞察力と共に、一人の人間としての魅力があり、文化、言葉を超えたやりとりがあり、良いものを一緒に作ろうという情熱と、お互いへのリスペクトが常にありました。

- 彼女のアイデアを形にする中で、伝統的な技法を調整したり、再解釈する必要があった部分はありましたか?が求められた部分はありましたか?
彼女の理想とする染色表現を実現するためのすり合わせには時間を要しましたが、作り手にとっても未経験の表現に向き合う貴重な機会となりました。有松での体験をもとに、光の透過や空間での見え方まで具体的に設計されていたことで、方向性を共有しやすかったと感じています。伝統技法を尊重しながらも、その解釈を少しずつ広げていく感覚があり、新しい可能性への一歩となりました。

- ベサンのビジュアルの世界を絞りで表現する中で、特に楽しかったこと、あるいは難しかったことは何でしたか?
絞りの染色という特性上、温度や湿度、工程のわずかな違いによって、サンプル通りに仕上げることが難しい場面も多く、試行錯誤の時間が必要でした。一方で、その過程の中で別の技法を組み合わせることで再現に近づけることもでき、表現の幅が広がる実感がありました。結果として、当初のイメージを超えて全体として調和のとれた仕上がりになったことは、非常に手応えのある経験でした。

- 今回のようなコラボレーションは、有松・鳴海絞の新たな方向性や、より幅広い応用の可能性に、どうつながっていくと思いますか?
美しさには普遍性があります。夕暮れの光や星空のように、時代や文化を越えて人の心に響くものがある一方で、人が生み出すものにも同様の力が宿ると考えています。例えばゴッホの絵や広重の浮世絵のように、異なる文化圏でも共感をもって受け入れられている例からもそれを感じます。有松・鳴海絞も、このような協働を重ねることで、地域に根ざしながら普遍性を持った表現として世界へ広がっていく可能性があると思います。また、今回海外からのインターン生も制作に関わり、国境を越えた協働の中で、次世代にとっても有意義な経験が生まれたことは、この取り組みの広がりを実感する出来事でした。

- ベサンとのコラボレーションを通じて、絞りという技法の表現力について、新たに気づいたことはありましたか?
染色技法であることの強みは、さまざまな色の掛け合わせができることです。ただ歴史を振り返ると、木綿の白い素材の上に藍の紺色を染めることが有松の絞りらしさとして認知され作り続けられてきました。今回彼女の提案するカラーコンビネーションは、普段の僕らの仕事や日本の生活様式の中からでは絶対に出てこないようなものでした。そして照明という用途も、また形状も、全く新しい想像もしなかった形でした。ただ、それは単に人を驚かす突拍子もないアイデアということではなく、彼女のノートブックにびっしり書き込まれて、何度も練り直し、緻密に考え抜かれた先に出てきたもので、それはデザイナーという人々の生活を豊かに、社会を幸せにする役割を持った人の真摯な姿に触れたようでした。絞りという染色技法というのは紀元前から存在し、何千年と変わらないもので、僕らが普段使う道具もとてもシンプルなものですが、新しいアイデアや感性と結びつくことで未来を生み出す力があることに今回の出会いとプロジェクトを通じて感じました。