- アタンは、物語性と彫刻的なアプローチを強く持つ作家です。そうした視点は、今回一緒に探っていった組紐の種類や形状の選択にどのような影響を与えましたか?
アタンが伊賀に来てインスピレーションを受けた物がユネスコの無形文化遺産にも登録されている伊賀の伝統的な天神祭りでした。天神祭りでも登場する鬼行列をアタンなりに解釈した作品に似合う組紐はどのような柄が良いのか?どのような色味が良いのか?どのようなマテリアルが良いのか?そこを考えながらアタンに組紐を提案しました。
コラボレーションに使用した組紐は全て古典的な伝統的な組み方を採用しました。その中でも興味深いのがアタンが選んだ組紐は全て丸組から派生した組紐になり、現代の組紐で主流な平組は使わず表現しています。これは普段我々が振袖以外ではなかなか使わない紐で固定概念的に選んでいなかった組紐が選ばれた事に凄く興味がわき、どのようなデザインが産まれるのか凄くエキサイティングな気分でした。

- 今回のコラボレーションを通じて、新しい組み方の実験や、現代アート/デザインにおける意外な応用に挑戦することはありましたか?
今回のコラボレーションでは新しい組み方のチャレンジは行っていません。すべて伝統的な糸伍の柄を使っています。しかし今回のチャレンジで一番大変だった部分は今までの組紐の幅、太さの常識を超えた幅、太さの組紐を作成したことです。また一般的な組紐は絹で作られますが展示会場の環境、また販売後の置かれる環境、芸術品として長い年月を共にする作品になることを考慮して絹では無く今まで組紐に使ったことがないメーカーのポリエステルを用いた事は固さや幅をコントロールする上で凄くチャレンジングな事でした。

- アタンのデザイン思考を伊賀くみひもで表現するうえで、最も興味深く、また挑戦的だった点は何でしたか?
アタンの思考を組紐に落とし込んだ際に感じ取ったことは、普段は常識的な長さの組紐ばかり作成している中でこれは何に使うのか?という用途が解らない(デザイン的に本当に形になるの?)といった短い長さの組紐や普段作った事が無い長さの房の長さがある組紐を作成するのはすごくチャレンジングな事ですし、我々も長年やっていても未発見な事が多くエキサイティングなことが多かったですね。特に房の長さが通常の長さの3倍ある組紐は手間が3倍以上かかりましたが作品に神秘的なエッセンスを与えることが出来たと思います。

- 伊賀くみひもの可能性を伝統的な用途の枠を超えて広げようとするご自身の姿勢に照らして、本プロジェクトはその進化にどのように貢献したと感じますか?
アタンとのプロジェクトは、組紐を着物に使う、靴紐に使うといった決まった用途から組紐を外し、形に縛られない自由な使い方を提案できたかなと思います。
今回のプロジェクトで一段とハイエンドな商品への応用、紐ではなくアートとして、空間デザイン、建築素材としての可能性を押し上げたのとアフリカの彫刻作品技術、光と影を用いた新しい表現方法、家具や装飾品としての可能性がいっきに広がり解釈の仕方次第ではまだまだ無限大の可能性を示せたかと思います。
糸伍が取り組んできた帯締め以外の組紐の使い方の提案という意味ではシューレース、ネックストラップといった実用小物の枠を一気に飛び越えどこまで広がっても組紐という概念、技術は成立する!を実現できたのかもしれません。

- 今回のコラボレーションを通じて、技術的にも創造的にも、伊賀くみひもに新たな方向性が見えてきた部分はありましたか?
普段、伊賀組紐を作成するにあたり、いかに綺麗に正しいピッチ、固さで作られているかを追い詰めてきた世界観からプロジェクトを通して、どう感じてもらうか?何を想像して何を形作るか?がすごく日々の作成で思い浮かぶ事でした。
伝統的工芸品ではなく芸術品を作るという見る人によって解釈や思う事が変わる作品を手掛ける事はすごくプレッシャーですし、普段の作品作りでは起きえない一つの組紐商品から見て頂く皆さんそれぞれ創造してもらう芸術作品に変わったという事実はこれからの帯締め作りへのアプローチの仕方、色使いやマテリアルの選択肢など一気に新たなフェーズに糸伍の組紐が進む事が出来たと思い感謝しています。
[Questions by Maria Cristina Didero]