【Craft × TechレクチャーシリーズVol.6 】「会津本郷焼 × 越前和紙 ×レクサス」

【Craft × TechレクチャーシリーズVol.6 】「会津本郷焼 × 越前和紙 ×レクサス」

2024/08/19

(Event)

「Craft × Tech」は、日本の伝統工芸と現代的なテクノロジーをつなぐ新しい試みです。工芸の美しい素材や技法を、歴史と未来の両面から見つめ、新しく特別なアート作品へと昇華していきます。伝統工芸の各産地と、世界的に活躍するデザイナー/アーティストによるコラボレーションをプロデュースすることで、時に数百年という歴史を持つ工芸に新しい発見をもたらすことを目指しています。
Craft × Techレクチャーシリーズの第6回目は、会津本郷焼、越前和紙、レクサスといった各業界の工芸職人やデザイナーたちが登壇しました。

本イベントは、2023年に東京大学にて始まったCraft × Tech特別レクチャーシリーズの最終回。第6回となる今回は、400年の歴史を誇る福島県大沼郡の伝統工芸品「会津本郷焼」の窯元である株式会社流紋焼の代表取締役社長 弓田修司氏と、福井県越前市にて1500年以上の伝統を有する「越前和紙」を手がける株式会社杉原商店の代表取締役社長 杉原吉直氏、さらに、トヨタ自動車株式会社  レクサスインターナショナルにて、革新に挑戦し続ける「クルマづくり」に取り組むレクサスデザイン部部長の須賀厚一氏をお迎えしました。様々な伝統工芸、デザインの分野で活躍し続ける御三方に、現在の取り組みについてご講演いただきました。

会津本郷焼 弓田修司氏によるレクチャー

弓田 修司(ゆみた・しゅうじ Syuji Yumita)  
株式会社流紋焼 代表取締役。会津本郷焼事業協同組合 代表理事。東北クラフトテック連絡協議会 代表理事。愛知県瀬戸市では、窯業を学び、栃木県益子町で轆轤整形から焼成までを学ぶ。その後帰郷。東北唯一の磁器の産地である会津本郷焼の窯元として明治35年より工芸品と共に、絶縁碍子、照明器具、タイル等を、産出原料となる大久保陶石の特性と磁器の可能性を模索しながらその生産を進めている。

厳冬の中で紡がれる400年の歴史

会津本郷焼の歴史は約400年前から存在します。その出自は屋根瓦を焼く技術にあります。
400年前、会津藩は鶴ヶ城の屋根瓦を焼くために、兵庫県播磨国からわざわざ瓦職人を招きました。東北地方は非常に寒冷な気候であるため、普通の瓦は中で水分が凍ってひび割れを起こしてしまいます。そのため、寒さに対抗するために赤い土を使って瓦を焼く技術を取り入れたんです。この赤い瓦を焼くための技術が他の用途に活かせることが発見され、会津本郷焼の産業が始まりました。愛知県瀬戸市から技術者を招き入れ、焼き物産業に昇華させたことが会津本郷焼の始まりです。

1719年からは、会津藩の御用窯として、会津本郷焼は本格的に繁栄します。会津本郷焼のルーツは、同時に会津藩との結びつきが強かったことも意味しています。 その後、約200年後には東方の技術者が偶然、粘土を砕くことで磁器を作る方法を開発しました。それを会津も取り込み、磁器を作る技術も生まれました。会津本郷焼で使用される主な土は同じ山から採取できます。これにより会津本郷焼は、全国的にも非常に珍しい、陶器と磁器を同時に製造できる産地として注目されています。

「民窯」としての会津本郷焼

そんな会津本郷焼ですが、転機が訪れます。時の政策によって、仕えていた会津藩が廃藩を迎えたのです。これに伴い、会津本郷焼は民窯へと転向することになります。戦争や大火の煽りを受け厳しい時代もありましたが、紆余曲折を経て急須や茶碗を日本国内外で広めることとなります。特に、明治時代には急須が有名で、東京などの市場に出荷されるようになりました。急須の製造は手間がかかるため、製造を行う窯元は限られていましたが、それでも需要は高く、かつては150軒もの窯元があったと言われております。会津という風土が生み出す、素朴さと力強さが高く評価されました。

会津本郷焼が民窯として開花する出来事がありました。1926年の民藝運動です。これにより「民衆的な工芸品」が各地で広く奨励されるようになります。日用品が持つ機能美とはまた異なる、モノそれ自体の素朴な美しさを追求する「用の美」とも呼ばれる風潮が広まりました。 そして1958年、ブリュッセルにおける万国博覧会にて、会津本郷焼の郷土的な陶器の一つであるニシン鉢が、グランプリをいただくほど非常に高く評価されました。これを機に会津本郷焼のイメージがより民藝陶器と結びつくこととなりました。現在の我々の発展の方向性とPR活動における、大きな弾みとなり、会津本郷焼は新たなアイデンティティを模索し始めました。

新しい会津本郷焼のイメージと「流紋焼」

こうして新しい会津本郷焼のイメージを獲得しようと模索する中で、我々の活動を象徴する作品が生まれました。それが、我々の社名にもなっている「流紋焼」です。きっかけは、我々が民藝活動の一方で製造している、碍子(電柱の絶縁体)でした。実は、会津は碍子を低コストかつ高品質で製造することが可能なので、明治33年に逓信省を通して全国に普及し、現在でも年に約10万個ほどを製造しています。この碍子製造の技術を活かして作られたのが「流紋焼」でした。碍子製造では、陶磁器をガラス膜でコーティングするために、色とりどりの釉薬というものが使われています。これを高温の窯のなかで熔かして流すことで、色彩豊かな釉薬が流動的で様々な紋様を描くことが可能です。この「流し釉」という技術を用いることによって、一つとして同じ文様のない個性豊かな陶器を作り出せます。

流紋焼がなぜ、今の会津本郷焼を象徴しているのか。会津本郷焼は、耐寒機能を持つ瓦や碍子など、機能性を重視したものを多く作り出してきました。しかし、時が経つにつれ、機能性とはかけ離れたモノの美しさをより追求できるようになりました。土が描き出すこの模様は、我々の目指すイメージと「用の美」、さらには民芸活動において非常に強い意味を持ちます。今回Craft × Techに我々が参加した理由とも関連します。

地域おこしと新たな取り組み

会津本郷焼のイメージを皆さんの中にどう植えつけようか、当初はかなり難儀しました。会津本郷焼には磁気や陶器を初め、技術に基づいた様々な種類があります。ゆえに、何か特定のイメージを持たせづらいという側面も生みます。製品の種類の多さが持つ会津本郷焼の自由さを活かすため、ブランディングの意味も込めて会津本郷焼のマークやシールを活用しています。

また、現在会津本郷焼は地域おこし協力隊の活動とともに新たな発展を見せています。若い世代が伝統的な技術を活かして、例えば、焼き物の破片を使ったアクセサリー制作など、地域資源を活用した新しい産業が生まれています。このような取り組みは、会津本郷焼の認知度を高め、地域経済にも貢献しています。さらに、会津本郷焼のブランド化が進んでおり、地域団体商標を活用したマーケティング活動が行われています。国内外で会津本郷焼の魅力が広まり、多くの人々がその製品を手に取るようになっています。

会津本郷焼はその歴史とともに進化し、陶器と磁器の両方を手がける貴重な産地です。今後も日本の伝統工芸として、また伝統工芸の新たなイメージを模索するための架け橋として、大切にされ続けるでしょう。また、地域の若い世代による新しい取り組みが加わることで、さらに発展していくことが期待されています。 会津本郷焼は、単なる焼き物の枠を超え、地域の文化と産業を支える重要な役割を果たしています。今後もその魅力を多くの人々に伝えていきたいと思っております。

越前和紙 杉原吉直氏によるレクチャー

杉原吉直(すぎはら・よしなお Yoshinao Sugihara)  
和紙屋・杉原商店の十代目。1962年生まれ。 パリGUERLAINウィンドウ装飾、国立競技場、 グランドハイアットホテルけやき坂、 ANAラウンジ等和紙施工実績多数。登録商標「羽二重紙( はぶたえし)」「漆和紙(うるわし)」開発。 2016年第一回三井ゴールデン匠賞大賞受賞。 2019年外務省に招聘され、 ドバイとポーランドで和紙のセミナー開催。和紙ソムリエ。

「伝統」を捉え直す

越前和紙の里には「紙すきの神様」を祀った神社があります。毎年和紙作りを祝うお祭りが行われており、神様が和紙の作り方を村人に教えたという伝説があります。1500年以上もの歴史を持つ越前和紙ですが、そのうち福井県は全国の伝統工芸士の半分であるほぼ30名の方がおります。そのため和紙は福井県の伝統工芸の一つとして扱われていますが、私はただ伝統を守ろうとしているわけではありません。

和紙の技術自体は、1500年前に中国から伝わったものです。当時としては最先端の技術で、日本人は自らの手で改良を施してきました。つまり、和紙の技術はずっと進化してきました。私は紙を売る側の人間なので、和紙の産地では色んな紙漉きの人が多種多様な紙を作り続けていることを知っています。だからこそ「伝統工芸」という言葉を、今だからこそ捉え直すべきなのではないかと思います。ただ伝統を守ることを使命としているわけではなく、和紙を現在のデザインや建築にどう活かすべきかをずっと考えています。

和紙の魅力は光にあり

越前和紙は楮、三椏、雁皮など、天然の素材を使って手作りされます。この手作りの工程が和紙の一番の特徴です。手で作ることによって和紙には独特の質感が生まれます。また、和紙の魅力の一つはその光の透過性です。通常の紙とは違い和紙は天然素材で作られているため、繊維が絡み合ってできています。そのため、調湿効果や紫外線カット、空気中のゴミをキャッチするなどの機能性を有しています。ですが最も特徴的なのは、和紙が熱伝導率を下げる能力に長け複雑な繊維の乱反射を起こせるため、光を柔らかく拡散させる力を持っていることです。この特性が照明や内装のデザインにおいて大きな役割を果たしています。特に、和紙を使った照明器具やインテリアは、空間に温かみを加えてくれます。そのため、建築の材料として世界中で和紙が使われています。例えば、アマンホテルのインテリアやフランスの高級ブランド「ゲラン」の店舗のデザインに、隈研吾さんが手がけた建築に和紙が取り入れられています。また、和紙はアートの素材としても用いられます。実際に武田双雲さんやリチャード・セラさんなどの著名なアーティストたちが和紙を使って作品を制作しています。

古き良さを踏襲し新しいモノを作る

中国から製紙技術が到来したあと、日本人は自分たちなりに改良を施しました。元々紙の素材であった麻を日本の植物に置き換えることで、紙の強度や耐久性を向上させました。それは源氏物語が1000年以上の年月を経ても、ちゃんと読める状態で国宝として残るほど文字の美しさを保つことができるほどです。また、昔書かれた記録の真贋を見極めるための要素としても機能します。

このような進歩の歴史がある一方で、伝統工芸品は存在することが大変な時代に突入しました。明治時代に入り近代化を迎えた日本では、畳や障子といった古き良きモノが徐々に消え始めたのです。だからこそ、我々は伝統工芸の意味を再び捉え直す必要があるのではないかと感じています。先述したとおり建築やアートの材料といった和紙の多彩な用途を、さらに開拓するべきなのではないかと思います。たとえば、最近ではレクサスとのコラボレーションで、和紙を使った大きなアート作品を作成しました。これはCraft × Techの活動の一環でもありました。1.3メートルの幅、4メートルの高さの和紙を30枚以上作るというかなりの大仕事でした。しかも、年末から2月までの期間で展示会に間に合わせるというタイトなスケジュールでしたが、職人さんたちの協力もあり完成に漕ぎ着けました。

私たちの目指すところは、越前和紙をただ「守る」ことではなく、その伝統を現代の生活の中に生かしていくことです。和紙はもともと日本の伝統的な文房具や建材として使われてきましたが、今ではデザインやアート、建築の分野で新たな可能性を見せています。杉原商店もその未来を切り拓く一歩を踏み出しています。 私の地元福井県越前市にあるギャラリーでは、毎月第4土曜日に和紙を実際に見ていただける機会を提供しています。和紙がどれほど美しい素材か、実際に触れて感じていただけると嬉しいです。

レクサスデザイン部長 須賀厚一氏によるレクチャー

須賀厚一(すが・こういち Koichi Suga)  
Lexus International レクサスデザイン部部長。1988年入社。96年米国アートセンターカレッジへ留学し、01年から3年間ニースのデザイン拠点へ出向。2008年iQでグッドデザイン大賞を受賞。2010年よりレクサスデザイン部に異動しLSのプロジェクトチーフデザイナーを担当し2018年より現職。22年からはGRデザインも担当。

レクサスの革新と「美しさ」への挑戦

レクサスは1989年にブランドを立ち上げて以来「革新」を追求し続けてきました。我々は常にお客様の期待を超える新しい挑戦をし続けています。私が属するデザイン部も試行錯誤を繰り返しながら、日本のメーカーでしか作れないような車にチーム全員で挑んでいます。

最近発表されたレクサスのGXは、非常にタフで頑丈なオフロード車です。スポーツブルーというカラーを基調に、力強さを感じさせるデザインに仕上げました。四輪駆動車としてしっかりとしたラインで、運転中も四隅が見えるような形にデザインされています。  一方で、LSというセダンは低く流れるような美しいシルエットが特徴的です。セダンらしいエレガントさを感じさせ、流れるフォームと強調された身体を作り出しました。GXとLSは全く異なるコンセプトですが、どちらも「美しさ」が重要な要素としてデザインされています。

「機能美」と「用の美」、デザインの葛藤

自動車のデザインにおいて「機能美」という言葉がよく使われます。自動車は安全性や性能といった機能面が非常に重要な製品です。私たちデザイナーは常に機能性とデザイン性のバランスを取ることを求められます。しかし、東京大学出身の工業デザイナーである山中俊治氏は、自身のコラムにてこのようなことを述べました。曰く、「ものづくりの現場において機能美を濫用することは、デザイナーの役割を狭めたり過剰な期待を招く危険がある。これはある種の神話で、作り手にとっては呪いにもなり得る」ということです。私も長年デザインをしてきてこの言葉に納得しました。機能美を追求しすぎると美しさが犠牲になり、味気ないものになってしまうことがあります。また、ソフトウェアやAIといった新しい技術を用いる昨今では、人が直感的に美しいと感じるモノ作りの未来について常に悩まされております。

最近、私は桂離宮を訪れる機会がありました。桂離宮はすべての建物や調度品が「用の美」に基づいて作られています。「用の美」とは、物が実用的でありながらその美しさが機能に密接に関連していることを意味します。美しさそのものが使用する人の生活と所作を豊かなものにするのです。この考え方は、「機能美」とは異なります。「機能美」はあくまで機能を追求した結果、デザインが削ぎ落とされることが多いです。一方で「用の美」は美しさ自体が機能の一部として徹底的に突き詰められています。モノは実用性があることが一番美しさに繋がりますが、その機能とは別にモノとして美しくなければならない。この考え方が、私の中でデザインに対する新たな視点を提供してくれました。

レクサスの未来とクラフトマンシップ

レクサスでは日本の工芸や職人技に敬意を表し、それを取り入れることに挑戦しています。工芸品の特徴はすべてが手作業で一つ一つ作られていることです。対して自動車は大量生産されるため、すべての部品を手作業で作ることはできません。ですが、レクサスでは可能な限り手作業を取り入れ、職人技を活かしたデザインに取り組んでいます。 

私もレクサスでデザインを担当する中で、金沢市の株式会社箔一と協力しプラチナ箔を使った製品開発に携わった経験があります。このプロジェクトでは耐候性や安全性のテストを繰り返し、約4年をかけてようやく完成しました。こうしたクラフトマンシップに基づく挑戦は海外からも高く評価され、次にどんなアイテムが出るのかと多くの反響をいただいています。

レクサスはこれからもクラフトマンシップを大切にし、日本のモノづくりの強さを生かした車作りを進めていきます。特に、環境に配慮した持続可能な開発が求められる現在、伝統的な技術を活かしながらも最先端の技術と融合させていくことが大切だと考えています。昨今の車の開発にはデジタル技術が不可欠となっていますが、レクサスではクレイモデルという手作業による工程も大切にしています。最終的な形を作るためには、デジタルだけではなく職人の手による感覚的な調整が不可欠だからです。  私たちのイメージを職人が形にしていく過程があってこそ、レクサスの車は完成します。手作業による微調整が車の美しさや品質を決定づけるのです。

レクサスのデザインは、機能性と美しさ、そしてクラフトマンシップのバランスを大切にしています。私たちは時代の変化に対応しながらも、常に美しい車作りを目指していきます。これからもレクサスの車にご注目いただき、ぜひその進化を感じていただければ嬉しいです。

[開催概要]
日時:2024年8月19日 (月) 18:00-20:00
場所:東京大学先端科学技術研究センター ENEOSホール
   東京都目黒区駒場4-6-1 先端科学技術研究センター3号館南棟1階
登壇者:弓田修司、須賀厚一、杉原吉直


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