- 尾張七宝の魅力で、最初に心を奪われたのはどんな点でしたか?
まず強く印象に残ったのは、表面の精密さと、そこに宿る奥行きです。遠目には完璧に滑らかで、緻密にコントロールされているように見えるのに、近づくと驚くほど生き生きとしています。色には確かな奥行きがあり、線の運びも信じられないほど繊細です。工業的でありながら、同時に手仕事の痕跡が深く感じられる——私はそうしたものに強く惹かれます。静けさの中に、強い存在感があると感じました。

- 七宝は、強靭でありながらも予測のつかない独特な工芸品です。制作を進める中で、その性質がデザインの直感に影響したり、発想の方向を変えるきっかけになりましたか?
七宝は本当に魅力的な工芸だと感じました。とりわけ、銅板にガラス釉薬を施すというプロセスに強く惹かれたのは、これまで自分が関わったことのない製法だったからです。新しいプロジェクトの醍醐味は、視野や知識が広がることにあります。尾張七宝についてほとんど知識のなかった私にとって、産地を訪れ、現場を体験することはとても重要でした。その経験がデザインプロセスに直接影響し、作品の方向性を導いてくれました。
製法そのものに挑むというより、技法への敬意を土台にしながら、現代的な視点をどう重ねられるかに関心がありました。一方で、焼成にはどうしても一定の予測不能さが伴います。その「精密さ」と「偶然性」のあいだに生まれる緊張感が、デザインをより開かれたものにし、変化を排除するのではなく受け入れる姿勢へと導いてくれました。さらに、銅と鉱物由来の七宝釉という、工程のすべてが天然素材に基づいている点にも深く共鳴しました。これは私にとって非常に重要であり、ものづくりに対する私自身の価値観とも強く重なっています。

- 安藤重幸氏や安藤七宝店とのコラボレーションを通じて、色や質感、装飾に対する新たな視点が生まれたと感じることはありましたか?「装飾」はご自身にとって難しい単語であることは承知していますが…
「装飾」という言葉には今でも少し抵抗がありますが、今回のコラボレーションでは、そのテーマとかなり直接的に向き合わざるを得ませんでした。というのも、七宝は本質的に、装飾や表面と深く結びついた技法だからです。そこで私は、伝統的な模様づくりの方法ではなく、より直感的で、自分にとって自然な手法を選びました。フェルトペンで完全にランダムな線を引き、自分がデザインした素地の形に合わせて作った紙の表面に、その線を自由に描き重ねていったのです。その段階では、それは装飾というより、むしろ一つの所作や手の痕跡のように感じられました。
特に面白かったのは、それが七宝の工程を通して翻訳された瞬間、何気なく偶発的にも見えるジェスチャーが、驚くほど精密で、工芸の密度をまとった表現へと変化したことです。遠目には黒いフェルトの線のように見えるのに、近づいて見ると、実際には銀線に黒い釉薬を詰めたもので、制作・製造の両面で極めて緻密な仕事が積み重ねられていることが分かります。即興的に見えるものと、実は高度に制御されたもの——そのあいだにある曖昧さが、表面に対する私の捉え方を大きく揺さぶり、ひいては「装飾」そのものへの考え方にも影響を与えたように思います。

- 七宝という工芸品の特性に向き合う中で、デザインの方向性を見直すきっかけとなった瞬間はありましたか?
この問いは私にとって、「インダストリアルデザイナーであるとはどういうことか」という点と深く結びついています。私の役割は、クライアントの製造プロセスを理解し、その現実に即した解決策を提案することです。今回も、安藤七宝店の工程をできる限り深く理解・尊重し、既存のノウハウの中で実現可能なものをデザインすることを目指してきました。
ひとつ具体的な制約として挙げられるのが窯のサイズです。当初はもう少し大きなスケールで制作したいと考えていましたが、焼成可能な最大寸法の制約から、それは不可能だと分かりました。ただ、私はそれを単なる制限とは捉えず、むしろコンセプトの核に据えるきっかけとして受け入れました。こうして生まれたのが、個々のパーツが積み重ね可能なボックス状で構成され、自由に組み替えられる設計になっている「Kasane」です。
大きな一体型の造形でスケールを表現するのではなく、構成と組み合わせによってスケール感を生み出すという発想です。そうした制約は、プロジェクトの野心を削ぐのではなく、むしろ方向性を定めるものになりました。つまり「押し返された」というより、素材と製造の現実がアイデアを導いてくれた——そんな感覚に近いと思います。

- 今回のコラボレーションの経験が、今後のあなたの創作活動にどのように影響していくと感じていますか?
今の私にとって最も大切なのは、「ものがどのように作られているか」を深く理解し、その知識を敬意と知性をもってデザインに取り込んでいくことです。今回のプロジェクトを通じて、クライアントが受け継いできた伝統や技術、そして意向を尊重しながらも、そこに新しさや意外性、魅力をどう持ち込むかが、自分にとっていかに重要かを改めて確認しました。
また今回、装飾のようなテーマに対しても、それがクライアントの文化や専門性の核にあるものであれば、より自然に、前向きに向き合えるようになったと感じています。制約に抗うのではなく、その制約の中でつくること——その姿勢が、つくり方を学び続けたいという意欲をさらに強め、次に作品が向かう先を、その学びに導かせたいと思わせてくれました。
フィリップ・マルアン (@philippemalouin.com)
[Questions by Maria Cristina Didero]