- 美濃和紙は、非常に繊細でありながら強さもを合わせ持つ素材ですが、どんな点に創作上の魅力を感じましたか?
美濃和紙には、静かな緊張感があります。壊れてしまいそうなほど繊細で、ほとんど重さがないように見えるのに、意外なほどの強さもある。そのバランスに、まず強く惹かれました。また私たちは、この素材がもつ根源的な性質にも心を動かされました。和紙は水と切り離せません。楮を育て、繊維を整えるうえで水が不可欠というだけでなく、紙そのものの中にも水の気配が、目に見えるかたちで残っています。繊維の向きや密度には流れや動きの記憶が宿り、制作のプロセスは消されることなく、読み取れるまま表面に現れる。透明性は、時間や所作、重力を読み解く手がかりにもなります。さらに私たちには、和紙の原型ともいえる存在に取り組みたいという明確な意図がありました。障子は親しみがありながら、開かれた枠組みでもあります。素材をより建築的なスケールで探究でき、光を「後から当てるもの」ではなく、素材そのものに内在する要素として扱える点に魅力を感じました。

- 自ら原料を育て、和紙を新たな方向へと導いている千田崇統氏との対話には、多くの刺激があったと思います。なかでも特に印象に残っているテーマややり取りは何でしたか?
私たちが千田さんと重ねた対話は、観察と相互の信頼を土台にしたものでした。千田さんが暮らし、制作する土地を訪れたことで、和紙が一枚の「紙」にとどまらず、床や壁、道具、日々のさまざまな応用に広がり、環境の一部として根付いていることが見受けられました。その体験を通して、私たちにとって和紙は「物体」というよりも「場」として捉え直されていきました。対話の中心にあったのは、工程そのものを調整していこうとする意志です。試作と反復を重ねる中で、千田さんは、従来の和紙ではあまり扱わないスケールや密度にも挑戦しながら、私たちのビジョンに近づけるために紙漉きの方法を部分的に調整してくださいました。既存の技法にプロジェクトを合わせるのではなく、技法そのものを一緒に育てていくような感覚がありました。また、不確かさを避けるのではなく、共有することも重要でした。どこに人の手を入れ、どこを重力や水、繊維の堆積に委ねるのか——介入と委ねの境界を探る対話が、常に核にありました。

- 制作のプロセスの中で、素材や技法に驚かされ、思いがけない方向へとプロジェクトが展開した瞬間はありましたか?
土地性は「参照すべきモチーフ」というより、「成立条件」として捉えました。美濃の地域は、水質や気候、そして積み重ねられてきた知の蓄積によって形づくられており、そのすべてが紙そのものに織り込まれていると感じたからです。その結果、私たちは何かを足し込んで表現するのではなく、抑制に根ざしたアプローチへと向かいました。本作は、不透明と透明、静と動、光と影のあいだをゆるやかに行き来することで立ち上がっています。同時に、伝統的な障子の硬質な幾何学性をわずかにやわらげ、構造を少し緩めることで、紙のふるまいに応答できる余白をつくりました。また、繊維が滝のように流れる表情はこの土地の風景を思わせますが、それを象徴的な図像として扱うのではなく、建築的な存在として空間に立ち上げることを意識しました。

- 時間をかけて丁寧に向き合う触覚的な伝統的工芸と過ごす中で、素材や制作プロセスに対する考え方に変化はありましたか?
和紙と向き合う時間を通して、「遅さ」そのものが精度や配慮のあり方になり得ることを、改めて実感しました。千田さんの仕事にあるような徹底した丁寧さがあってこそ、最初のアイデアに対する正確さや誠実さが、最終的なかたちとして結実していくのだと思います。また、このプロセスを通じて、作者性の捉え方も少し変わりました。素材に「何をさせるか」を問うのではなく、素材に余白を与えたときに「どう振る舞うのか」へと、関心の軸が移っていったのです。この視点は工芸にとどまらず、私たちがより広い実践の中で素材やテクノロジー、システムに向き合う際の姿勢にも影響しています。

- 従来の用途を超えて、和紙にどのような新しい可能性を感じていますか?
私たちは和紙を、光の透過や拡散、そして微細なゆらぎによって空間そのものをかたちづくる建築的な素材として捉えています。スケールを大きくして扱うことで、和紙が持つ濃淡のグラデーションや不均質さが、装飾としてではなく、空間に作用する要素として立ち上がってきます。また、従来の用途を超えて、和紙は環境とテクノロジーのあいだをつなぐ媒介にもなり得ると感じています。照明システムや現代的なツールと組み合わせることで、どこか人間的な温もりを保ったまま、空気感や雰囲気を生み出すことができます。私たちにとって和紙の未来とは、素材が持つ抑制や誠実さ、静かな強さに忠実でありながら、伝統を内側から拡張し、新たな可能性をひらいていくことにあると考えています。
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